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上野 由日路

2019年5月8日

レンズの向こうのもうひとつの世界【Hugo Meyer Primoplan 5.8cm F1.9】

プリモプラン5.8cm F1,9という名のレンズがある。長らく中古市場で何の変哲のない標準レンズとして埋もれていたが、21世紀に入りいろいろなレンズの再評価が進んだ結果その独特な描写で再度人気を獲得しつつある。

近年では復刻もされ話題になった。このレンズの面白い点は主に女性に支持されていることだ。このレンズの持っている描写の特徴が女性の絵作りに向いているからだと思う。ベールをまとったような浅い色調とホロホロと崩壊してゆくような儚いボケはこのレンズでしか味わえない描写だ。

独特な描写を持つにもかかわらず長年埋もれてきたのにはいくつかの理由がある。その理由を紐解いていきたい。

Hugo Meyer Primoplan 5.8cm F1.9は1896年創業の老舗レンズメーカーHugoMeyer社の看板レンズとして1934年に登場した。

1923年にエルネマン社から発売されたエルノスターにより1930年代は大口径レンズ戦国時代となっていた。各社から開放値F2を超えるレンズが続々と発表された。F1.9のプリモプランもそんな大口径レンズとして誕生し、当時最先端だった一眼レフシリーズの『エキザクタ』の標準レンズとして採用された。

当時のフィルムはまだ感度が極めて低く明るいレンズは撮影シチュエーションを広げる重要な要素であった。当時のカメラやレンズに夜を意味する『ナハト』や『ノクト』が使われることが多かったのは夜でも撮影ができるという意味であった。

ちなみにプリモプラン8cm F1.9が採用された中判のエキザクタのカメラはナハトエキザクタという名であった。

この時代各社がこぞって大口径レンズを設計していたが特許の関係で同じ構成を他社が使うことはできなかった。

そこでメーカーごとに創意工夫を凝らした様々な構成が存在していた。プリモプランの構成も前出のエルノスターから独自進化した構成である。しかし百花繚乱の様相を呈していた大口径戦国時代もあっけなく終焉を迎える。

それは圧倒的王者ゾナー5cm F1.5(1932年)とそれに対抗するLeitz Xenon 5cm F1.5(1936年)をはじめとするダブルガウス型の2強時代に突入するからだ。各社から発売されていた様々な大口径レンズもこの2大王者に駆逐され時代の表舞台から姿を消した。

ただそんな中にあってプリモプランはある理由で生産が続けられた。

その理由は第二次世界大戦(1939年ー1945年)でドイツが東西に分割ことと関係している。Hugo Meyer社は本拠地Görlitz(ゲルリッツ)が東ドイツの領土内にあった為に社会主義国として復興していくことになった。

資本主義とは違い競争社会ではないため新しいレンズ構成の採用よりも従来のレンズラインナップを安定生産することが優先され、プリモプランが引き続き生産され続けたのだ。その際、戦前のプリモプラン5.8cm F1.9では真鍮製だった鏡胴はアルミ製に変更され、レンズもシングルコート化された。名前も58mm F1.9 とミリ表記になった。

その際、描写の特性も現代風にアレンジされ過剰補正となり描写はやや硬い印象となった。戦前は高級レンズとしての地位を獲得していたプリモプランだが戦後は生産性を重視した大衆向けの汎用レンズとして生産が続けられたのだ。

そんなプリモプランが見直されたのは21世紀になってからである。

デジタルカメラ、とくにミラーレスカメラの台頭で古いレンズの写りが再評価されるようになった。デジタル時代に入りこれまで優れたレンズの基準とされてきたコントラスト、発色、シャープネスなどはすべてカメラボディー内やRAW現像で調整できるようになって来た。

レンズに求められることはそのレンズ特有の個性があるかどうかということだ。

1930年代の大口径レンズ戦国時代に生まれたプリモプランは独自のレンズ設計をしている。ごく一部のレンズを除き同じ設計は存在しない。それゆえその写りも実に独特なのである。同じ時代に競い合ったライバルたちはどのレンズも短命に終わり現存する個体はごく僅かでコレクターズアイテムと化し入手は困難を極める。

歴史の流れに翻弄されたことでプリモプランは1950年代の後半まで生産を続けられた。そのせいで十分な数が市場にある。唯一の写りを皆が楽しめるのだ。

プリモプランの特徴はピント部の滲みと画面全体をうっすらと覆うベール状のフレア、そして崩壊するようなほろほろとしたボケだ。

作例

大げさかもしれないがこのレンズで被写体を覗くと目で見るのとまったく違う世界が広がっている。そしてどんな風景でも画に変えてくれる。そんな魔法を持った懐の深いレンズレンズがプリモプランなのだ。

 

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この記事を書いた人

フリーカメラマン上野 由日路

1976年生まれ。六本木スタジオを経てフリーに。音楽、舞台、雑誌、コマーシャルでのポートレート撮影をメインに活動。オールドレンズ、とくにシネレンズの特徴を活かした独特の表現で作品制作を行なっている。

近年オールドレンズの魅力を広めるための活動に力を入れている。「オールドレンズ写真学校」などのワークショップや「オールドレンズフェス」などのイベントは、その活動の一環。著書に「オールドレンズ×美少女」(玄光社)がある。

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